歌が上達するために欠かせないのが「発声練習」です。発声とは、ただ大きな声を出すことではなく、声帯や呼吸の使い方を少しずつ整えていく作業です。初心者にとって最も大切なのは「喉に負担をかけず、自然に声を響かせること」。喉だけで無理に出そうとすると、痛みの原因になったり、声がすぐに疲れてしまったりします。まずは、自分の身体をゆっくりと声に慣らすところから始めましょう。

最初に行いたいのはハミングです。ハミングとは、口を閉じ、鼻に音が抜けるように「んー」と軽く響かせる発声法です。ハミングの利点は、声帯にかける負担がとても少なく、声の響きの方向をつかみやすいこと。初心者でも安全に取り組めるウォーミングアップとして最適です。ハミングの際は、顔の中央や鼻の奥がじんわりと振動する感覚を大切にします。頭のほうに響きが抜けていくように意識すると、声の通りが自然と良くなります。もし、喉の奥が詰まるように感じたり、響きが下がっているようなら、姿勢と呼吸を整えて再挑戦してみましょう。

ハミングで響きを感じられるようになったら、次は母音の発声練習に進みます。「あ・い・う・え・お」という日本語の基本の母音は、歌の中で常に使われている大切な音です。どの母音も無理に大きく出す必要はありません。最初は「まっすぐ伸ばす」ことを目標にしましょう。特に「あ」は口の開け方で音が変わりやすく、「い」や「う」は響きが前に抜けにくいことがあります。ゆっくり一音ずつ、息を止めずに発声することで、声の筋肉が少しずつ鍛えられていきます。

発声練習と聞くと、「時間をかけないと効果が出ない」と思われがちですが、初心者は長時間続ける必要はありません。むしろ10分程度でも毎日続けたほうが、喉への負担を抑えながら確実に上達できます。声帯はデリケートな筋肉で、継続することでしなやかになり、声の安定感が増していきます。

毎日の練習を続けると、次第に声の芯が太くなり、歌ったときにブレが少なくなります。また、声が前に出て響くようになるため、高い音も楽に出しやすくなります。発声練習は、まさに声の筋トレ。コツコツ積み重ねることで必ず変化が感じられます。

焦らず、自分のペースで丁寧に発声を続けていきましょう。それが、良い声を育てる最も確かな道です。